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PICK UP! 世界が広がる本01

ノンフィクション母親になって後悔してる

 イスラエルの女性社会学者によるこのノンフィクションは、世界各国で賛否両論を巻き起こした。イスラエルの女性は平均3人の子供を産むそうだが、著者はまず子供のいる女性たちに「もし時間を巻き戻せたら、あなたは再び母になることを選びますか?」と訊ね、NOと答えた23人に取材。これまで語れずにいた本音や複雑な感情を引き出していく。
 「子供のことは愛しているけれど、母親という役割に押し込められるのはつらい」「自分は母親に向いていない」「誰の母でもない自分に戻りたい。母親になったことを後悔している」etc.……。本書を読んで、「子供がかわいそう」「子供を産めば自然と母性愛がわいてくるものなのに」「子供をもつことこそ女の幸せ」「母親なら子供を第一に考えるのが当たり前」などと批判する人がいる一方で、23人の女性たちが吐露した本音に共感したり、救われたと感じたりする女性も多いという。
 その真摯な告白に耳を傾け、今の社会で主流となっている「あるべき母親像」や「理想の幸せの形」を見つめ直してみることが、子供のいる人にとってもいない人にとっても、また男性にとっても、より生きやすい社会を築いていく一歩になるのかも。

2022.3月刊行
著者:オルナ・ドーナト 訳:鹿田昌美 発行:新潮社

ノンフィクションプリズン・サークル

 島根県の山懐に建つ官民混合運営型の施設「島根あさひ社会復帰促進センター」は、「セラピューティック・コミュニティ(回復共同体)」というプログラムを取り入れた更生法を日本で唯一行っている刑務所だ。受刑者同士がグループになって自らの内面を語り合い、それぞれが犯罪に至った原因を探ったりしながら自分と向き合うことが、更生の手がかりとなっていく。
 その様子を長期にわたって取材し、10年がかりで制作したドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』が上映され、話題になったのは2020年。本書は、そんな映画を制作した女性監督自身が、映画では描ききれなかった部分をも含め克明につづったノンフィクションだ。
 犯罪者の話なんて自分とは無関係と思う読者も多いだろうが、読めば心揺さぶられずにはいられない。受刑者たちが互いの体験に耳を傾け、本音で語り合ううちに、否応なく自分自身と向き合い、さまざまな気づきを得、少しずつ変化していく。人間的に成長もしていく。語り合うこと(聴くこと/語ること)が持つ力を再認識させられると同時に、罪を犯す者とそうでない者との間にさしたる違いはないことにハッと気づかされる。

2022.3月刊行
著者:坂上香 発行:岩波書店

ノンフィクション火星の人類学者

 著者は、ロバート・デ・ニーロとロビン・ウィリアムズが患者と医師を演じた『レナードの朝』をはじめ、人間の脳の働きの不思議さに迫る医学エッセイで世界中に愛読者を持っていた脳神経科医。2015年に亡くなるまでに、数々の名作を残しているが、なんといってもピカ一なのが、本書だ。
 世界がモノクロームに見えるようになってしまった全色盲の画家や、激しいチック(自分の意思とは関係なく不規則かつ突発的に手足などが動いてしまう)を起こしながら手術を行う外科医など、事故や病気によって脳に障害を負った7人の患者たちについてつづっていく。絶望して当然の状況にも関わらず、彼らがその個性を生かし、自身の人生を輝かせていることに驚かされ、激しく心打たれる。
 特に忘れ難いのが、テンプル・グランディンという高機能自閉症の女性を紹介した表題作。人の気持ちがわからず、うまくコミュニケーションできないテンプルは、自分について〈まるで火星で異種の生物を研究している学者のようなものだ。火星の人類学者のような気がする〉と語る。しかし、動物の気持ちを読み取ることには秀でており、やがて高名な動物学者となる。赤ちゃんのとき母親に抱きしめられることすらできなかったほど神経が過敏で、人と触れ合えない彼女が、寂しさを埋め安心感を得るために、自分で開発したコンプレッサー式の「抱っこ機械」に抱きしめてもらうシーンには、胸を締めつけられるよう。7編ともヘビーな話なのだが、驚きと感動に満ちていて、読後、人間ってすごいな、と勇気をもらえるはず。

文庫本は2001.4月刊行
著者:オリヴァー・サックス 訳:吉田利子 発行:ハヤカワ文庫

エッセイセンス・オブ・ワンダー

 1962年、農薬や殺虫剤に使われていたDDTの危険性を告発する『沈黙の春』を上梓し、環境保護運動の先駆者となった海洋生物学者のレイチェル・カーソン。晩年、がんを患った彼女がラストメッセージとしてつづり始め、死後、友人たちが遺稿をまとめる形で完成させた本書もベストセラーとなり、1965年の刊行から半世紀以上が経つ今も世界中で読み継がれている。
 センス・オブ・ワンダーとは、「誰もが生まれながらに持っている、自然の神秘や不思議さに目を見張る心」のこと。早世した姪の息子ロジャーと海辺や森をそぞろ歩き、地球に満ち溢れているさまざまな生命を見て、聞いて、嗅いで、触れて、その尊さに心震わせる様子が、詩のような美しい文章でつづられていく。
 〈知ることは感じることの半分も重要ではない〉〈地球の美しさと神秘を感じ取れる人は、科学者であろうとなかろうと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまれることは決してないでしょう〉といった忘れがたいフレーズと、美しい写真がたっぷり。まさに、「センス・オブ・ワンダー」を磨いてくれる1冊だ。

1996.7月発行
著者:レイチェル・カーソン 訳:上遠恵子 発行:新潮社

ノンフィクションパパは脳研究者 子どもを育てる脳科学

 脳の働きを紹介したわかりやすい科学エッセイで知られる東大大学院教授が、長女が4歳になるまでの成長を、脳研究者として、また一人の父親としてユーモラスにつづった育児エッセイ。子どもの脳がどんなふうに変化していくのか、世界観がどのようにして芽生え多様化していくのか、個性というものがどう育っていくのかetc.……が、よくわかる。子育て中の人はもちろん、子育てが終わった人、子どものいない人にとっても、人間というものに対する理解を深める上で役に立つはず。

2017.8月刊行
著者:池谷祐二 発行:クレヨンハウス

ノンフィクションこの星の忘れられない本屋の話

 世界各国の作家たちが、忘れられない本屋と書物にまつわる個人的な体験をつづった15のエッセイからなるアンソロジー。イギリス、アメリカ、ウクライナ、コロンビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、中国、エジプト、ケニア、イタリア、ドイツ、トルコ、デンマーク……と、著者たちの出身地はさまざまだ。
 どんな本や書店との出会いが彼らを作家にしたのか。個性豊かに描かれる一人ひとりのエピソードが興味深い。それぞれの国の背景や、時代によって変わりゆくもの・変わらないもの・変えてはならないものも見えてくる。ネット書店の隆盛で、町の小さな本屋さんがどんどん消えていっている今だからこそ、手に取りたい1冊。

2017.12月刊行
編集:ヘンリー・ヒッチングズ 訳:浅尾敦則 発行:ポプラ社

ノンフィクションPHOTO ARK 動物の箱舟

 今のペースで生物が絶滅すると、21世紀末までに地球全体の生物種の3分の1が姿を消してしまうと言われている。そんな状況を憂えた動物写真家が、2006年に「PHOTO ARK(「写真版 ノアの箱舟」の意)」というプロジェクトを立ち上げた。世界中の動物園や水族館、動物保護センターなどで飼育されている希少な生きものたちを、すべて一人で25年の歳月をかけてスタジオ撮影し、未来のための記録として残そうという試みだ。
 その中間報告ともいえるこの写真集では、これまでに撮った6000枚を超える写真の中から400枚を厳選して収録。背景を黒もしくは白に統一し、ホッキョクギツネもマルメタピオカガエルもマレーバクもアオメクロキツネザルもミナミザリガニも、あえてほとんど同じ大きさでポートレート風に撮影している。動物たち固有の表情に迫った写真は、1枚1枚がアートのよう。すべての命が美しく価値ある存在であることを力強く語りかけてくる。

2017.8月刊行
著者:ジョエル・サートレイ 訳:関谷冬華 発行:日経ナショナルジオグラフィック社

エッセイやりなおし世界文学

 スコット・フィッツジェラルドの『華麗なるギャツビー』、アガサ・クリスティの『終りなき夜に生れつく』、チェーホフの『かもめ』、モーリス・ルブランの『怪盗ルパン』シリーズ、チャンドラーの『長いお別れ』、トーマス・マンの『ヴェニスに死す』、中島敦の『山月記』、トルーマン・カポーティの『遠い声 遠い部屋』、ヘルマン・ヘッセの『知と愛』、アルベール・カミュの『ペスト』、マルエル・プイグの『蜘蛛女のキス』、シェイクスピアの『マクベス』、マキャベリの『君主論』、兵法で知られる『孫子』、太宰治の『津軽』、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』etc.……名前は知っているが実はちゃんと読んでいない人が多い古今東西の名作92作品を独自の視点で読み込み、その面白さを紹介していく。
 淡々としていながらユーモア漂う筆致で知られる芥川賞作家だけに、よくある書評や文学案内とはひと味もふた味も違う。遠い昔に書かれた古典でさえ、血肉を持った人間ドラマとして立ち上がってきて、紹介を読んでいるだけでワクワクしてくる。それぞれのストーリーや魅力がすいすい頭に入ってくるから、読んでいなくても読んだ振りができちゃうだけでなく、どれもこれも面白そうで読書欲をそそられるはず。

2022.6月刊行
著者:津村記久子 発行:新潮社

ノンフィクションPIHOTEK 北極を風と歩く

 この20年間に北極と南極を単独で1万キロ以上も踏破し、「植村直己冒険賞」を受賞した極地冒険家が文を、「世界で最も美しい本コンクール」銀賞に輝いた絵本作家が絵を担当し、贅沢な絵本が誕生した。食料を積んだソリを引きながら、たった独り、命がけで北極を歩く“僕”の一日が描かれていく。
 ページをめくれば、体を切り裂くほど冷たい風を感じ、足下の氷が軋む音が聞こえてくるよう。極北の自然の厳しさと美しさを伝える絵本は、私たちの日々の営みが北極の海氷を溶かし、シロクマをはじめとする生き物の棲息地を狭め続けていることも突きつけてくる。

2022.8月刊行
文:荻田泰永 絵:井上奈奈 発行:講談社 

ノンフィクション語学の天才まで1億光年

 「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」をポリシーに世界の辺境まで足を延ばし、学生時代から25を超える言語を習っては現地で使ってきた著者。現在(2022年時点)56歳だが、本書でつづられているのは主に19歳から約10年間に訪れた8カ国での体験だ。 たとえば、早稲田大学2年の春休み、探検部の活動としてインド一人旅をしたエピソード。当時は英語がまるでしゃべれなかったが、同じゲストハウスに泊まっていたニュージーランド人の老婦人から身振り手振りで頼まれ、カルカッタの古い教会に同行。彼女が高齢のシスターと抱き合って再会を喜んでいるのを眺め、「あなたも一緒に写真を撮ってもらえば」という勧めを断って帰ってきたところ、宿のロビーに貼ってあったポスターで、そのシスターがマザー・テレサだったことを知り後悔したとか。その1カ月後、パスポートや財布など貴重品すべてを盗まれてしまうのだが、警察への説明や、とりあえずの宿泊場所確保(なんと前日にたまたま知り合ったインド人小学生の家を訪ねて泊めてもらった)、航空券再発行のための交渉(本来は無理なのに関係各所を訪ねて懇願しまくってゲット)などを通して、「伝えたいことがあれば話せる」という語学の真実に開眼する。
 また、コンゴでムベンベという未確認の生物を探しに行くため、京王線で隣り合わせたフランス人に頼んでブロークンな仏語会話を習ったり、現地で使われているリンガラ語を学び始めたり。さらには、ミャンマーの反政府ゲリラの元総司令官に紹介された中国人牧師から雲南語で「ワ語」を教えてもらったけれど、実際にワ人(かつて首狩り族として知られた少数民族)の村を訪れたら笑っちゃうぐらいに通じなかったり(それでも、めげずにコミュニケーションを続けて信頼をつかみ、ワ語の方言しか話せない村人たちに標準ワ語を教えるまでに)……。
 そんなエピソードが滅茶苦茶ユニークで面白いだけでなく、体験に基づいた言語と文化に関する考察が興味深い。世界各地でとんでもない目に遭いながら身につけた語学習得のコツも、大いに参考になる。〈語学は、現地で適当に振り回すと開かずの扉が開くこともある“魔法の剣”。地域や人々を深く知る上でも有効な手段〉という著者の言葉に、納得。

2022.9月刊行
著者:高野秀行 発行:集英社 

ノンフィクション信じようと信じまいと

 著者は1893年生まれのアメリカ人。「嘘のような本当の話」を求めて世界201カ国を巡り、収集した「真実」を軽妙なイラストとコメントからなる記事を新聞で発表。莫大な人気を博し、世界350紙で掲載されていたという。
 その記事をまとめて戦後間もなく出版され世界的ベストセラーになった奇書が、なんと復刊された。前足に耳があるキリギリス、在職中眠って過ごしたアメリカ大統領、人を食べるハマグリ、空から降ってきた魚、金歯を入れた牛、海に浮かぶ市街、尖った針をずらりと埋め込んだベッドの上に裸で寝る修行をするインド人、ヨーロッパで戦う兵士たちの慰問用ケーキに入っていた結婚指輪(南アフリカ在住の女性がケーキの種に間違って落として焼いてしまった150個のケーキのうち、たまたま指輪が入っていた1個に当たったのが、なんと彼女の息子だったという超偶然話)など、笑えるものから感動秘話、背筋が凍る話までを198のエピソードが詰まっている。
 「そんなあ、まさかあ、あり得ない」と思うけれど、著者によれば、すべて真実だというからビックリ。くだらないエピソードも含めて、70年以上前の世界の断片と人間の多面性が見えてきて興味深い。ちなみに、博覧強記で知られる荒俣宏は中学時代に本書を読んで大いに影響され、著者を「師匠」と崇めていたそう。

2022.6月刊行
著者:R・L・リプレー 訳:庄司浅水 発行:河出書房新社

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