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PICK UP!

n番部屋を燃やし尽くせ

 「n番部屋事件」をご存知だろうか。2018年後半から20年にかけてテレグラムなどのメッセンジャーアプリ内で行われ、韓国社会を震撼させたデジタル性犯罪。複数の加害者が、未成年も含む女性たちの個人情報を盗み取り、脅しによって「奴隷」化して言うことをきかせ、性的な写真や動画を送らせてはアプリ内のチャットルームで流通させていたのである。盗撮写真や、ディープフェイクによって作った知人女性の陵辱動画などもアップされていた。まともな人間が見たら吐き気を催しそうなチャットルームは増え続け、摘発されただけで60部屋、映像をシェアしていた人間は最低でも6万人、被害者は60人を超えるという。

 著者は、この事件の解決に大きな功績のあった女性たち。当時大学生でジャーナリスト志望だった2人は、卑劣な犯罪が野放しにされていることに憤り、被害者を救いたいと追跡団「火花」を立ち上げる。そして、潜入取材などを通してチャットルームの実態を暴き、多数の証拠を集め、サイバー性犯罪に腰が引けていた警察やマスコミを動かしていく。

 本書は、そのプロセスと、事件前後の2人の思いをつづったノンフィクション。被害者に対するセカンドレイプにならないよう被害の詳細にはあえて触れず、女性を人間ではなく商品として見ている部屋の利用者たちが交わしたチャット内容や、どのようにして加害者をあぶり出し追いつめていったかをつづっている。

 事件が社会問題化する中で、著者たち自身も精神的に追いつめられていったそう。「誰かがやらなきゃいけないことだけど、あなたがやらなくても」と親たちに心配されながらも、「誰もやらないから私たちがやる」と途中で投げ出すことをしなかった2人の勇気、迷い苦しみながら成長していく姿に力づけられる。

 あまりにひどい性搾取の実態にページを繰るのが嫌になるが、読むべき本の一つだということは確か。多くの人がうすうす気づいていながら傍観者を決め込むことで野放しにされている性被害は、ジャニーズ問題をはじめ日本でも現実に起きている。そして誰もがその被害者になる恐れがあるのだ。本書には、n番部屋事件を受けて法改正が進む韓国社会の変化も併記されている。傍観者であることをやめて、日本も変えていかなければ……なんてことも考えさせられる1冊だ。

2023.10月刊行
著者:追跡団火花 訳:米津篤八/ほか 発行:光文社

生を祝う

 台湾で生まれ、来日後に日本語で書いた『彼岸花の咲く島』で2021年芥川賞に輝いた著者。受賞後、第1作となる本書では、人種やジェンダーによる差別がなくなった近未来を描く。
 物語の舞台は、「すべてを平等に」という思想を突き詰めた結果、胎児による「合意出生制度」なるものが当たり前になった社会だ。今の社会に、この親たちの子供として生まれたいか、生まれたくないかを、まだ母親のお腹にいる胎児自身が選んで決める。その子本人が生まれ出ることを望まなければ、どんなに子供が欲しくても出産することはできない……。
 突拍子もない設定なのだけれど、筆の力が生み出す不思議なリアリティで読者に重く切実な問いを突きつけてくる。生きづらさを増す一方の現代にあって、子供が欲しいと思うのは親のエゴなのではないか? やっと授かった我が子に「生まれたくない」という選択をされてしまったら? 命はいつから命になるのか? 受精直後か、胎児と呼ばれるようになる妊娠8週目からか、中絶が認められる妊娠22週未満の胎児は命ではないのか? 命に対する責任はいったい誰にあるのか?etc.……。
 2021年の流行語大賞に「親ガチャ」という言葉がノミネートされた。どんな親のもとに生まれるか、家庭環境や生まれ持った容姿・能力によって人生を左右される状況を、ゲームの「ガチャ」になぞらえたスラングで、「親ガチャで大ハズレ」などと言うらしい。そんな残酷で切ないスラング以上にドキリとさせられ、考えさせられる1冊だ。

2021.12月刊行
著者:李琴峰 発行:朝日新聞出版 ¥1,760

同志少女よ、敵を撃て

 第2次世界大戦中、ソ連では大勢の女性たちが従軍しドイツ軍と戦った。リュドミラ・パヴリチェンコという女性狙撃兵は309人を射殺したことで知られる。
 そんな史実を踏まえて書かれた本書は、狙撃兵となる訓練を受け、独ソ線の最前線に配備される女性たちの物語。無名の新人のデビュー作だったにもかかわらず、2021年11月に発売された直後から話題になり、大手書店の文芸部門でベストセラーのトップ。翌年、全国の書店員が選ぶ本屋大賞を受賞し、直木賞候補にもなった。
 魅力的なキャラクター設定、巧みな構成、迫力と緊張感あふれる戦闘シーン……。エンターテインメントとして抜群に面白いだけでなく、はからずも戦うことになった普通の女性たちの内面の変化を通して戦争というものの悲惨さに迫っていく。数多の敵を殺すことで少女たちは自分自身や仲間の命をつなぐのだが、戦いに習熟すればするほど罪悪感や倫理観は薄れ、一般社会から乖離していく。果たして戦争が終わったとき、彼女たちは日常に戻ることができるのか……。
 80年以上前の異国を舞台にした物語は、破天荒さとリアリティが絶妙なバランスで入り交じり、平和な現代日本でのほほんと生きている私たちにも他人事だと思わせないだけの力を持っている。

2021.11月刊行
著者:逢坂冬馬 発行:早川書房 ¥2,090

本の栞にぶら下がる

 著者は韓国文学翻訳の第一人者。韓国だけでなく世界各地で注目された『82年生まれ、キム・ジヨン』をはじめ数々の話題作・問題作の翻訳を手がけてきた。そんな彼女が、古今の文学作品(日本や韓国のものが多いが西洋の翻訳物も。埋もれていた詩人や作家の作品も多数)を取り上げながら、そこに刻まれた日本と朝鮮という国の関わり、歴史の表舞台には登場しない市井の人々の歩みを丹念に繙いていく。
 著者いわく、〈どんな古い本にも、今につながる栞がはさまっている〉。瑞々しく端正な文章でつづられた25編のエッセイが栞となって、韓国や日本の先人たちの思いと、現代日本で生きる私たちをつなげてくれる。

2023.9月刊行
著者:斎藤真理子 発行:岩波書店

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