図書館への寄付の情報

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PICK UP!

エッセイ国道沿いで、だいじょうぶ100回

 中学2年のときに父親が急逝し、4歳下の弟はダウン症で知的障害があり、高校1年のときには母親が病で下半身の感覚を失って車椅子ユーザーに……。そんなシビアな環境にありながら軽快&ユーモラスな筆致で日々のあれこれをつづった文章がネットで話題を集め、一躍、人気エッセイストとなった著者。最初のエッセイ集『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』は、NHKでドラマ化もされ話題を呼んだ。
 3作目となる本書も、どんなつらいこと大変なことも前向きにとらえようとするスタンスと、オリジナルな表現力で読者をグイグイ引き込んでいく。笑ったり涙したりしながら読み進めば、身の回りの世界が愛おしく見えてきて、「うん、私も、ありのままの自分でだいじょうぶ」と思えるはず。

2024.5月刊行
著者:岸田奈美 発行:小学館

一般小説四つの白昼夢

 収録された4つの短編は、白昼夢の中に読者を引きずり込むような不思議な味わいなのに妙にリアル。さすがは小説巧者!と唸らされる秀作ぞろいだ。
 30代の夫婦が理想の家に移り住んだところ、天井から何かをズルズル引きずるような音が聞こえてくる「屋根裏の散歩者」。多肉植物に魅せられ、仕事も家庭も失って落ちていく男を描く「多肉」。夜更けの電車に忘れられた遺骨から、才女好きと噂された男の30年の家庭生活がひもとかれる「妻をめとらば才たけて」……。ホラーっぽく始まったのにやがて温かさに包まれる作品もあれば、どんどん怖くなっていき衝撃のラストにゾゾゾゾッと背筋が凍る作品も。
 特にお薦めは、4番目に収録されている「遺影」。義母の葬儀のため遺影にふさわしい写真を探す主人公の由佳。しかし、義母は長いこと認知症を病んで無表情だったため、いい写真が見つからない。やっと自然な笑顔の写真が見つかったと思いきや、肩先に男性の手が映り込んでいた。
 由佳自身が撮ったもので、場所も認知症初期だった義母をよく連れて行った森林公園だと思い出したけれど、男性とのツーショットを撮影した覚えはまったくない。軽く抱き寄せているように見える手の主は、いったい誰なのか……。背筋ゾクゾクものかと思いきや、予想外の結末に胸がキュン。切なくもやさしい気持ちに満たされる。

2024.7月刊行
著者:篠田節子 発行:朝日新聞出版

一般小説死ねばいい! 呪った女と暮らします

 主人公は、76歳の真理子。30年前に夫と離婚し、慰謝料代わりにもらった一軒家でひとりで暮らしてきた。単調な毎日が続いていたある台風の夜、庭に太った老女がケガをしてうずくまっているのを見つける。
 放っておけず家に招き入れると、遙かに年上に見えた女は3歳年下で加代と名乗った。なぜ庭にいたのか疑問に思いながらも、孤独な真理子は「家賃が払えず帰る家がない」という加代に「しばらくここにいていい」と口走っていた。
 得体の知れない加代に最初は警戒心を抱いていた真理子だが、生真面目に慎ましく生きてきた自分と違って大胆かつ子供のように無邪気で屈託なく笑う彼女に心惹かれ、ずっと2人で暮らせたらなどと思うようになる。しかし、過激なタイトルが暗示しているように、やがて加代は真理子が呪いたいほど憎んでいた相手だったことを知ることに……。
 いったいなぜ、どんな思いを胸に、加代は嵐の夜、真理子のもとにやってきたのか。クライマックスにかけて明かされる事実に驚かされ、同時に、憎み合うはずのふたりの間に築かれていく友情に心が温かくなる。
生きている限り、人と人とは分かり合える可能性があるのかもしれない。後悔しないために大切なのは、素直になって思いを言葉にすること――社会派エンタテインメントを得意とする著者の最新作は、そんなことに気づかせてくれる。

2024.6月刊行
著者:保坂祐希 発行:中央公論新社

ノンフィクションテヘランのすてきな女

 『世界はフムフムで満ちている』や『パリのすてきなおじさん』『日本に住んでる世界のひと』など、印象的で親しみやすいイラストと軽快な文章によるエッセイ集、インタビュー集で注目されてきた著者。大の相撲ファンだった彼女は、数年前、イランに女子相撲があることを知る。肌を一切出せないため黒い長袖シャツ&10分丈の黒スパッツ&黒スカーフ姿でまわしを締めた女性たち。なぜそんなにまでして相撲が取りたいのか……。
 興味を持ってイランの女子相撲のサイトをフォローし、日本の女子相撲の稽古にも参加。やがて大会に出場して48歳で初土俵を踏んだのち、念願叶って2023年にイランの首都テヘランへと旅立つ。
 その半年ほど前の2022年秋、イランではスカーフの被り方が不適切だと逮捕された女性が亡くなり、警察による暴行だと怒った女性たちによるデモが全土で拡大していた。そんなシビアな状況にもかかわらず、著者は通訳に助けられながら、女子相撲の関係者だけでなく、さまざまなイラン女性の生の姿に触れたいとインタビューを重ねていく。
 話を聞いた女性たちは、年齢も職業も立場も考え方もさまざまだ。全身をすっぽり覆うチャドルを着るのをやめた主婦。性暴力の被害者や信仰・信条の違いゆえに政府によって迫害される人々に寄り添い続け、自身も秘密警察から訴えられている弁護士。朝7時から12時間も路上に立ち続け、風紀を乱す者がいないかチェックする風紀警察官。コンピュータエンジニア、細密画の絵師、看護師や美容整形外科勤務の女性(なんとイランでは豊胸手術や鼻を低くする手術、アンチエイジング施術が盛んなのだそう)。ボート選手や女子サッカーの監督兼社会学者。トランスジェンダーやレズビアン、バイセクシュアルの大学生たち。アフガニスタンからの移民や、クルド人居住区で暮らす女性。パラリンピック委員会のスタッフで自身も障害のある女性……などなど。
 それぞれの声が聞こえてくるかのような生き生きとした似顔絵と、軽妙な文章を読みながら、日本との違いにびっくり仰天したり、おののいたり、共感したり。20数人の声を通して、イランで生きる女性たちの今が見えてくる。

2024.6月刊行
著者:金井真紀 発行:晶文社

エッセイ夢みるかかとにご飯つぶ

 著者が子供のころに抱いた最初の夢は「黒柳徹子になりたい」というもの。その後、シンガーソングライター、女優、NHKのアナウンサー……と夢は変われど、どれも叶わず、出版社に入社。働きながら今度は小説家を目指すが、結婚して2児の母になってからは小説を書くための時間などなくなってしまう。
 17年間務めた会社を辞めたのは2年前。40歳を目前にしても「小説家になりたい」「私に期待していたい」という思いを捨てきれなかったからだという。ライターとして働きながら、さまざまな新人賞に応募するものの、いい線までいっても毎回落選。それでもあきらめきれず、子供を保育園や学校に送り出すと、仕事や家事の合間に次なる小説を描き続けていた…。
 そんな日々をブログにつづっていたところ、出版社から声がかかり、エッセイ集としてまとめたのが本書。〈何者かになりたがって、あがいて、失敗して、言い訳している、みっともない日々。みっともないけど、たのしみな日々〉が率直につづられていて、共感したり、身につまされたり。
 歳を重ねるにつれ夢を抱き続けることを「いい歳して青臭い」と考えがちだけれど、著者のように「自分に期待する」のをやめない生き方もいいじゃん、と思えてくる1冊。

2024.7月刊行
著者:清繭子 発行:幻冬舎

一般小説スプリング

 国際ピアノコンクールに挑む4人の若者たちを主人公にした前作、『蜜蜂と遠雷』は、文章から音楽が聞こえてくると大絶賛され、直木賞と本屋大賞を史上初めてダブル受賞。映画化もされてベストセラーとなった。人気・実力ともトップクラスの作家が最新作で描いたのは、バレエの世界。天才的なバレエダンサーにして振付家としても天賦の才を持つ萬春(よろず・はる)の成長が、語り手を変えながら全4章で多角的立体的に描かれていく。
 第1章の語り手は、海外のバレエ・スクールへの留学者を頻出するワークショップで春と出会い衝撃を受ける中学3年生の深津純。第2章は、春の叔父で、彼を幼少期から見守り、その内面を豊かにする役を担う大学講師の稔が語り手だ。第3章は、春と共にバレエを学び、やがて作曲家として才能を開花させていく滝澤七瀬の語り。そして最終章は、春自身の視点で描かれる。
 構想と執筆に10年の歳月をかけたという物語には、著者がこれまでに見たり聞いたり読んだりした、ありとあらゆる舞台、絵画、映画、音楽、文学に関する知識がこれでもかと盛り込まれている。著者オリジナルのバレエ作品がいくつも登場するのだが、実在している作品と思い込んで検索してしまうほどのリアリティ。読みながら音楽が聞こえ、伸びやかに踊る姿が見えてくるようだ。
 自分の理想とするものに向かって、ひたすら邁進する春。そして、神に愛されているとしか思えないその天才ぶりに戦慄しながらも僻んだり妬んだりすることなく、春と出会ったことで生まれる自身の化学反応を楽しみ、それぞれに大きくなっていく純と七瀬。3人の関係も、さわやかでとてもいい。
 メインの登場人物がみんな美男美女かつ天才的才能の持ち主で、一昔前の少女マンガみたいではあるのだけれど、436ページを一気読みしてしまう面白さ!

2024.4月刊行
著者:恩田陸 発行:筑摩書房

エッセイ老いてお茶を習う

 軽妙なエッセイで人気を博してきた著者が、68歳にして茶道を習い始める。20年前、担当編集者だった女性が「完全リタイアしたら茶室をつくって、お茶の先生になりたい」と話すのを聞き、「そうなったら弟子になる」と約束していたのだ。
 古希を間近にした新たなチャレンジは、「やる気はあるが、座るのが難しい」「同じ動作が記憶からこぼれおちる」「お茶がおいしく点てられない」といった小見出しからうかがえるように、戸惑いと失敗と恥をかくことの連続。でも、失敗も含め、著者が人生初の体験を楽しみ、学ぶ面白さを堪能していることがウィットに富んだ文章から伝わってきて、読んでいるこちらもウキウキワクワクしてくる。
 何かを始めるのに遅すぎるなんてことはない。残りの人生の中では、今が一番若い。やりたいと思ったときが、始め時。著者に倣って、なんでもいいから始めてみたくなる。

2024.3月刊行
著者:群ようこ 発行:KADOKAWA

エッセイあなたの言葉を

 人気作家が「毎日小学生新聞」で連載していたエッセイをまとめたのが本書。小学生の読者を想定して書かれているのだけれど、年齢に関係なくおすすめしたい1冊だ。
 例えば、こんなエピソードが紹介されている。ベストセラーになった小説『かがみの孤城』に、主人公の女の子が「雨の匂いがする」と口にし、クラスメートたちに気取っていると笑われ、真似されてからかわれるシーンがあるが、著者自身も同じような経験をしたことがあるそう。そして、こう続ける。「思ったことを口にすることは悪いことでもなんでもない。それはわかっているのだけれど、人に笑われたくはない。だから私は、友だちの前では出せなかった気持ちをノートに書くことで、『自分の言葉』の成長を止めずにすんだ。胸中に抱いたモヤモヤを言語化して自分の言葉を獲得することは、正解のない社会の中で自分を守ることにつながる」と。
 子供にもわかるやさしい言葉で書かれたエッセイ集は、深い洞察と思いやりに溢れていて、読むほどに心がポカポカしてくる。「子供時代にこの本に出会えていたらよかったな」と思うと同時に、「大人として、自分はどうありたいか」を考えさせられもする。そしてまた、辻村深月という作家がいかにして誕生したか、その作品の魅力の根源にあるもの何かも、見えてくる。

2024.4月刊行
著者:辻村深月 発行:文藝春秋

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