ノンフィクション世界一よくわかる! 100人の天才画家でたどる西洋絵画史
西洋絵画史を5つの時代にわけて、各様式や流派について図解。それぞれの時代を築き発展させた天才アーティストたち100人の代表作とその魅力、人物像や作品が生まれた社会的背景などを、1人見開き2ページでコンパクトに紹介&解説していく。
イタリア・ルネサンスへの先鞭をつけたと言われる1200年代のジオットから始まり、いま世界各地の路上や壁に人知れず作品を描いては話題を呼んでいる素性不明のバンクシーまで、総勢100名。日本人では、御年95歳になる前衛芸術家、草間彌生も登場する。
さらに、時代の異なる巨匠たちの作品を比較したり、誰が誰のどんなところに影響されたかを分析したり、各時代の画材や絵画の保存&修復方法をわかりやすく解説したり、美術館の構成やバックヤードについて紹介しつつ理想的な美術館の歩き方を伝授したり……と盛りだくさん。カラー図版がてんこ盛りなのもうれしい。この1冊で西洋美術通になれる贅沢なアートガイド。
2024.5月刊行
著者:カミーユ・ジュノー 翻訳・監修:冨田章 発行:グラフィック社
ノンフィクションテヘランのすてきな女
『世界はフムフムで満ちている』や『パリのすてきなおじさん』『日本に住んでる世界のひと』など、印象的で親しみやすいイラストと軽快な文章によるエッセイ集、インタビュー集で注目されてきた著者。大の相撲ファンだった彼女は、数年前、イランに女子相撲があることを知る。肌を一切出せないため黒い長袖シャツ&10分丈の黒スパッツ&黒スカーフ姿でまわしを締めた女性たち。なぜそんなにまでして相撲が取りたいのか……。
興味を持ってイランの女子相撲のサイトをフォローし、日本の女子相撲の稽古にも参加。やがて大会に出場して48歳で初土俵を踏んだのち、念願叶って2023年にイランの首都テヘランへと旅立つ。
その半年ほど前の2022年秋、イランではスカーフの被り方が不適切だと逮捕された女性が亡くなり、警察による暴行だと怒った女性たちによるデモが全土で拡大していた。そんなシビアな状況にもかかわらず、著者は通訳に助けられながら、女子相撲の関係者だけでなく、さまざまなイラン女性の生の姿に触れたいとインタビューを重ねていく。
話を聞いた女性たちは、年齢も職業も立場も考え方もさまざまだ。全身をすっぽり覆うチャドルを着るのをやめた主婦。性暴力の被害者や信仰・信条の違いゆえに政府によって迫害される人々に寄り添い続け、自身も秘密警察から訴えられている弁護士。朝7時から12時間も路上に立ち続け、風紀を乱す者がいないかチェックする風紀警察官。コンピュータエンジニア、細密画の絵師、看護師や美容整形外科勤務の女性(なんとイランでは豊胸手術や鼻を低くする手術、アンチエイジング施術が盛んなのだそう)。ボート選手や女子サッカーの監督兼社会学者。トランスジェンダーやレズビアン、バイセクシュアルの大学生たち。アフガニスタンからの移民や、クルド人居住区で暮らす女性。パラリンピック委員会のスタッフで自身も障害のある女性……などなど。
それぞれの声が聞こえてくるかのような生き生きとした似顔絵と、軽妙な文章を読みながら、日本との違いにびっくり仰天したり、おののいたり、共感したり。20数人の声を通して、イランで生きる女性たちの今が見えてくる。
ノンフィクション言語の力
著者はアメリカの大学で教える「言語心理学」の研究者。英語、ルーマニア語、ロシア語のマルチリンガルで、ほかにも広東語、オランダ語、日本語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、タイ語、アメリカ手話などを研究対象に、「人はどのように言葉を学習するか」「人が言葉を話すとき、脳はどのように働くのか」「言語を学習すると、脳の構造や情報処理の仕方がどう変わり、思考がどう変容するか」を長年にわたり研究してきたという。その成果を、最新のデータも紹介しつつ一般人にもわかりやすくまとめたのが本書だ。
翻訳ソフトやChatGPTの登場で外国語を学ぶ必要性が薄れつつあるけれど、著者によれば、〈複数の言語を話すことで創造的な思考に使うリソースが増え、偏見に陥りにくくなり、認知をコントロールする力も手に入る〉そう。新たに外国語を学べば、アルツハイマー病などの発症を4年から6年遅らせたり、認知症になっても症状が出にくくなる効果も期待できるという。
本書を参考に、新しい言葉にチャレンジしてみない? 著者いわく、〈新しい言語を習う最適な時期は『生まれたとき』だけれど、その次に最適なタイミングは『今』!〉」だそうだから。
2023年12月刊行
著者:ビオリカ・マリアン 訳:桜田直美 発行:KADOKAWA
ノンフィクション母、アンナ
ポリトコフスカヤは自宅のエレベータで何者かに射殺された。チェチェン紛争をはじめ、プーチン政権下での人権侵害を取材しては追及を続け、たび重なる脅迫を受けながらも活動をやめなかった結果として。
著者はアンナの娘。母のあとを追うようにジャーナリストとなるが、2022年4月、ロシアからの亡命を余儀なくされる。ウクライナ侵攻後、今度は自身が命の危険にさらされ、ティーンエイジャーの娘までクラスメイトから攻撃されるようになったためだ。
亡命して自由に発言できるようになってから、イタリア人女性ジャーナリストとの共著として書いたのが本書。弾圧に屈せずプーチン批判を続けた英雄として西側から高く評価されるアンナの素顔や彼女が遺したメッセージとともに、「英雄」を母親に持ったがゆえの苦悩や、「勇敢でありなさい」という在りし日の母の言葉を胸に同じ道を歩もうと決めるまでの葛藤が丹念につづられていく。
プーチン政権下で政治犯として逮捕された人々は数百人にのぼるという。暗殺された者、不審死を遂げた者も多く、アンナが勤務していたリベラル系の新聞社だけでも6人の記者が命を失った。コロナ禍とウクライナ戦争を経て政権批判はさらに困難となり、SNSや知人との会話さえ当局に取り締まられるようになったロシア社会を著者は内側から見つめ、考察していく。〈意識を抑圧する訓練が日常となり、無関心を貫くことが生き延びるための道となった。その枠からはじき出した者は運がよければ錯乱者として扱われ、悪ければ排除すべき危険分子と見なされる〉と。胸揺さぶられ、さまざまなことを考えさせられる1冊。
2023年11月刊行
著者:ヴェーラ・ポリトコフスカヤほか 訳:関口英子ほか 発行:NHK出版
ノンフィクション「烈女」の一生
「女だから」という理由で人生を制限されたり、「女ならではの」役割を期待されたりすることが今よりずっと多かった1900年前後に生まれ、苦闘しながら自分の力で道を切り開いた女性たちを、「働いて生きる」「シンボルを背負う」「苦しさを無視させない」「生きる場所を探し続ける」「『評価』の中で」という5つの切り口で紹介していく。
取り上げられているのは、ムーミンを生み出しレズビアンでもあったトーベ・ヤンソン、女性が楽しむファッションとしての下着文化を創り出した鴨居羊子、20世紀アメリカで最も有名な文化人類学者の一人となったマーガレット・ミード、貧しい農村の私生児から大統領夫人となりアルゼンチンの政治に多大な影響を与えたエバ・ペロン、武装盗賊団に誘拐されて自身も盗賊となるが投降&服役したのちインドの政治家となったブーラン・デーヴィーなどなど20人(ダイアナ妃など戦後生まれの人も若干名)。
悲劇的な形で生涯を終えた人も少なくないが、「嘘偽りのない自分」を生きようとあがく女性たちの姿に胸打たれ、励まされる。
2024年3月刊行
著者:はらだ有彩 発行:小学館
ノンフィクション死なないノウハウ
災害、失業、病気、家族の介護などで困り果てたときどうすればいいか。どんな社会保障制度があり、どんな手続きをし、誰を頼れば、それらを活用できるのか……。アラフィフになった独身の作家・社会活動家が、自身の不安も解消すべく、社会福祉士など各界の専門家に取材。シビアになる一方の日本社会でサバイバルしていくための情報とノウハウを、わかりやすく伝授してくれる。
専門家たちいわく、我が国の社会保障制度は「メニューを見せてくれないレストラン」。制度が迷路のようになっているうえ、行政側は社会保障費削減のため、利用者がメニューをしっかり読み込み、「正しい窓口で正しく注文」しないと利用できないことが多々あるのだそう。だからこそ、本書のアドバイスは必読だ。
さらに、パートナーや子供がいないまま死んだ場合の「残されたペット」問題、スマホやサブスクの解約、孤独死や散骨に至るまで網羅。各種困りごとの相談先も掲載している。いざというときのため一読し、手元に置いておきたい。
ノンフィクション問題解決のための名画読解
ピカソ、マグリット、ジェリコー、喜多川歌麿、草間彌生などなど、古今の名画約100点をオールカラーで取り上げながら、それぞれの制作プロセスを分析。個性溢れるアーティストたちならではの観察眼・ものの見方・考え方を解き明かしたうえで、それを一般人が仕事や日常生活で役立てていくための技法(自分の偏見や先入観に気づいたり、問題点を正しく定義したり、さまざまな視点から問題にアプローチしたり、膨大な未解決問題を小さく切り分けたり、これまでとは180度異なる解決作を見つけたりetc.)に置き換え伝授してくれる。
たとえば、パブロ・ピカソ。ピカソは彼なりのリアリティを追求した結果、「一地点から見えたものを描く」という従来のアートの前提を覆し、「さまざまな角度から捉えたものを再構成する」新しい表現方法を考え、人物の目や鼻の向きをチグハグに描いたり、静物を積み木のようにカクカクと描いたりする「キュビズム」を完成させていったという。彼のように、これまでとは異なる角度から物事を捉え直し、問題解決の新たな糸口を探るロードマップを、著者は提示していくのだ。
アート好きはもちろん、美術に興味のない人にもお勧めの、これまでにないアートブック。
2023.11月刊行
著者:エイミー・E・ハーマン 訳:野村真依子 発行:早川書房
エッセイ本の栞にぶら下がる
著者は韓国文学翻訳の第一人者。韓国だけでなく世界各地で注目された『82年生まれ、キム・ジヨン』をはじめ数々の話題作・問題作の翻訳を手がけてきた。そんな彼女が、古今の文学作品(日本や韓国のものが多いが西洋の翻訳物も。埋もれていた詩人や作家の作品も多数)を取り上げながら、そこに刻まれた日本と朝鮮という国の関わり、歴史の表舞台には登場しない市井の人々の歩みを丹念に繙いていく。
著者いわく、〈どんな古い本にも、今につながる栞がはさまっている〉。瑞々しく端正な文章でつづられた25編のエッセイが栞となって、韓国や日本の先人たちの思いと、現代日本で生きる私たちをつなげてくれる。
2023.9月刊行
著者:斎藤真理子 発行:岩波書店
ノンフィクション自分のために料理を作る
料理の楽しさを広げたいと初心者向けの料理教室や小学生向けの「オンライン子ども自炊レッスン」などを行ってきた著者(山口さん)のもとには、「自分のために料理が作れない」という悩みが数多く寄せられるという。「誰かのためなら作るけど、自分のためとなると面倒で、適当になってしまう」と。思わず共感する女性も少なくないだろう。
そこで、山口さんは精神科医の星野さんとタッグを組んで、ある試みをスタートする。まずは、「自分のために料理ができない」と感じている年齢も生活環境もさまざまな6名の男女に3カ月間、気軽に料理を楽しむノウハウをコーチ。次に、精神科医を交えて参加者と対話を重ねながら、なぜ自分のためだけの料理を億劫に感じてしまうのか、自炊レッスンを受けたことでどんな発見があり、気持ちや生活がどう変わっていったかを考え、突き詰めていくのだ。
そんなプロセスをルポルタージュ風にまとめたのが本書には、「自分のための料理を気楽に作って楽しむ」うえでの実践的なアドバイスが盛りだくさん。料理と自尊心が密接に関わっていることにも気づかされる、これまでにないユニークな料理書だ。
2023.8月刊行
著者:山口祐加 星野概念 発行:晶文社
エッセイ原田マハ、アートの達人に会いにいく
ニューヨーク近代美術館等のキュレーターから作家に転身し、アートに関連した傑作小説を次々に発表してきた著者。そんな彼女が敬愛し、多大なる影響を受けた人々のもとを訪れ、対話を重ねていく。
お相手は、漫画家の竹宮惠子や池田理代子、建築科の安藤忠雄、詩人の谷川俊太郎、映画監督の山田洋次、歌手・俳優・演出家の美輪明宏、藤原定家の末裔で平安時代から続く歌道を守り伝えてきた冷泉貴美子、シャネルの会長で小説家でもあるリシャール・コラスなど33人。それぞれのジャンルの第一線で活躍してきた達人たちが、人生を振り返りながら発する言葉は、豊かで深みがあり、読者にとっても生きる指針となってくれそう。
ノンフィクション100歳で夢を叶える
谷川俊太郎(詩人・90歳)、道場六三郎(和食料理人・91歳)、樋口恵子(評論家・90歳)、野見山暁治(洋画家・101歳)、大川繁子(保育士・95歳)、三浦雄一郎(プロスキーヤー・冒険家・90歳)、室井摩耶子(ピアニスト・101歳)、渡辺貞夫(サックス奏者・90歳)などなど、生涯現役を標榜し、90歳を超えても活躍している14人へのインタビューを収録。
何に心を砕きながら仕事をしてきたか。いま何に興味を持っているか。毎日をどのように過ごし、何を食べているか。日々の暮らしを生き生きと楽しめる秘訣は何か。この先にどんな夢や希望を描いているかetc.……大先輩たちがそれぞれに自身の体験や思いを率直に語っていく。
〈100歳を過ぎた今も、「これでいい」と思ったことはない。「もっと もっと もっと」と思う。『いま』を精一杯生きたい〉(室井摩耶子)、〈何かを始めるのに遅すぎることはない。いつまでもわくわくする気持ちを忘れない〉(大川繁子)などなど、豊富な実体験に裏打ちされた言葉の数々には、読む者の背筋をシャキッとさせる力がある。読者も、「もう歳だから」なんて言い訳していられなくなるはず。
ノンフィクション歴メシ! 決定版
古代マケドニアのアレクサンドロス大王、古代ギリシャのソクラテスや都市国家スパルタの戦士たち、古代エジプトのクレオパトラ、13世紀にアジアを旅したヴェネツィア生まれのマルコ・ポーロ、ルネッサンスの巨人レオナルド・ダ・ヴィンチ、18世紀後半のオーストリアとフランスで生きたマリー・アントワネット、19世紀ドイツで活躍した楽聖ベートーヴェンetc.……彼らはいったいどんなものを食べていたのか。
いまや失われつつある(中には、すでに失われてしまったものも)レシピを多数の資料や文献をもとに再現し、12の時代の60品の料理としてまとめたのが本書。歴史上の人物と一緒にテーブルを囲んでいる気分を味わいながら、各時代の食文化や人々の生活をエッセイと写真とで学べるユニークな1冊。
現代人の口にも合うよう味付けをアレンジし、入手困難な食材は代替品を紹介しているのもうれしい。興味を持った人はぜひトライしてみて。
2022.12月刊行
編集:遠藤雅司 発行:晶文社
エッセイスプーンはスープの夢をみる
スープが大好きで日々スープを作っているという編集者が、スープにまつわるエッセイや詩、物語など61編を選んで編んだアンソロジー。
村上春樹の小説の一節があるかと思えば、美食家としても名高い芸術家・北大路魯山人の随筆があったり、『不思議の国のアリス』を書いたルイス・キャロルの詩があるかと思えば、三島由紀夫がスープを飲むときのエチケットについてつづった文章や写真家・星野道夫がエスキモーにご馳走になったカリブーのスープに関するエッセイがあったり……驚くほどバラエティに富んでいる。
紹介されたレシピも具体的なものから、空想の産物まで実にさまざまだ。修道院のシスターたちが作る「ひと味違う豆スープ」に、お腹がグウッ。『魔女の宅急便』で知られる童話作家・角野栄子の作品に描かれた「月の光で煮て作る」スープには、想像力を刺激される。行間から、いろんなスープのおいしい匂いや、それらを味わう人々の幸せな気持ちまでもが伝わって来るよう。
2022.12月刊行
編集:早川茉莉 発行:筑摩書房
ノンフィクションちょい足しことば帳
TBSのアナウンサーだった著者は、退社後、コミュニケーション・スクールを設立し、さまざまな企業の若手社員から経営者にまでコミュニケーション・スキルを教えてきた。そんな言葉のプロが60年のキャリアを通して身につけた「ひと言プラスするだけで印象がガラリと変わる100フレーズ」を大公開。
相手の話を引き出す「共感・感想のちょい足し」、相手が思わず引き受けたくなる「依頼・相談のちょい足し」、場の雰囲気が悪くならない「意見・提案・反論・質問のちょい足し」、怒っている相手に気持ちよく許してもらえる「謝罪のちょい足し」、相手にスッキリ諦めてもらえる「断りのちょい足し」などなど、すぐに使えるフレーズが満載。大いに役立ってくれそう。
2023.1月刊行
著者:今井登茂子 発行:朝日新聞出版