企逆風の中でお客様の信頼をどのように獲得すべきか


 まさに逆風。昨年7月のパロマ製湯沸し器問題がワイドショーで報じられなくなったひと安心していた今年2月9日、経済産業省は「開放式小型湯沸器による一酸化炭素中毒事故の再発防止について」を公表し、リンナイ製機器での過去の死亡事故が明るみに出ました。その後も他メーカー製でのトラブルも相次いで報じられ、1月中旬の北海道・北見での都市ガス漏洩事故とあいまって、「ガスは危険」のイメージが広まっています。

 ガス販売事業者は、今回の一連のトラブルをどのようにとらえ、逆風の中でいかにしてお客様の信頼をつないでいくべきか……それらを考える上での基礎情報を整理しました。
(2007年3月5日現在) CFC LPG産業版


 ガス器具を使っているからCO中毒が起きる!?

 3月5日発売の「AERA」(2007年3月12日号。朝日新聞社)は、「ガス事故死はもっとある」の見出しを建てて、ガス事故による死者は、把握されているよりもはるかに多いかのように報じています。北見ガスのガス漏洩事故死が、当初「急性心臓死」と診断されたこと、一酸化炭素(CO)中毒死が所見ではなかなかわかりずらく、解剖されぬまま「病死」と扱われることが多いことなどを指摘した上での記事です。そして記事はさらに、同じ北見市内でのパロマ製湯沸し器が設置されたアパートでの「急性心不全による水死」者も、診断された病死ではなく一酸化炭素中毒の疑いが濃いことを指摘しています。

 この記事は、一酸化炭素中毒を吸うことは死に至るとても恐ろしいことであることを伝え、その中毒死がそれと特定しにくいということ人々に知らせようとしていますが、しかし大方の読者は、一酸化炭素中毒死はガス湯沸し器を使用するから生じる事故であり、ガスの使用は危険が伴うことだと認識するでしょう。成分それ自体に一酸化炭素を含む北見ガス漏洩事故と、不正改造による不完全燃焼による一酸化炭素中毒事故を、原因の違いを述べずに列記する書き方は、見出し同様、よりセンセーショナルな記事としたい記者の意図が感じられます。

 LPガスや天然ガスには、それ自体には一酸化炭素は含まれていません。ガス業界人ではあれば常識として知っているこのことも、一般にはまだまだ浸透していないようで、「ガス管をくわえて死ぬ」は40年も前の昔の話だと考えているのは、業界人だけと言えそうです。マスコミの取材者の多くも、一般と同程度の知識であり、北見ガスの事故が報ぜられるや、原料のLPガスに一酸化炭素が含まれているかのような報道もありました。

 こうした報道に対して、日本LPガス協会はマスコミ各社に「LPガスの品質について」のリリースを配布し(1月25日)、LPガスには人体に有害な一酸化炭素を含んでいないこと、北見ガスのようなLPガスを原料とする都市ガスの一部では、都市ガス製造過程で化学反応によって一酸化炭素が生成されることの周知を行いました。しかし、「ガス器具を使っているから一酸化炭素中毒が起きる」というマスコミの論調は変わりません。

 迅速な対応でお客様の信頼を確保する

 パロマ製湯沸し器トラブルで、昨年夏は連日連夜マスコミの取材を受けた(社)北海道エルピーガス協会の桐原一之専務理事は「新聞記者さんたちは最初から仮説と結論があって、それにそった情報を集めているような感じを受けました」と語っています。パロマのマスコミ対応のまずさが各方面から指摘されましたが、悪者=パロマの過失があって事故は生じたというストーリーの中で、多くの取材がなされ、記事が書かれた感がありました。

 マスコミの取材者を含め、一般の人々はガスのことを知りません。LPガスと都市ガスは供給形態以外にはどう違うのか、都市ガスといっても全国すべて同じ成分ではない……といったことや、法定点検等により石油機器に比べ設置先の把握がしやすいといったことも、あまり知られていません。「原因究明」「真相解明」を叫びながら、それよりもまず、当事者企業に「謝罪させる」ことを第一目的にしているのではないかと思われる記者も見受けられます。

 北海道協会では、パロマ問題の際を教訓に、北見ガス事故に際しては「家庭用LPガスには、一酸化炭素(CO)は含まれていません」を、そしてリンナイ製湯沸し器事故の公表後は「リンナイ開放式小型湯沸器の点検について」を、それぞれ直ちにホームページ上に掲載し、一般への周知活動を行っています。「北海道内に出荷された該当機種は26,544台(2月14日時点でのメーカーからの報告)であり、当協会では会員に対してメーカーの点検・調査への協力を要請しています。とにかくお客様に安心していただくことが先決ですから」(桐原専務)と昨年のパロマの時と同様に迅速な対応に努めています。

 北海道業界では、パロマ問題でも全国に先駆けて無償交換に踏み切った経緯があります。その時の判断について、全国エルピーガス卸売協会北海道地方本部の赤津敏彦氏(エア・ウォーター(株)専務)は次のように語っています。 「今回のトラブルでは、当初の発表時点で死亡事故の半数以上が北海道内で発生しており、その後も道内での事故が報告されています。確かにパロマは過去も(道協など北海道業界では、一酸化炭素中毒事故の危険のあるパロマ製機器を指摘し、01年5月、全国に流通している約4万台の回収を文書で要請したが、パロマ側はこの要請を受け入れなかったという)、今回の対応も問題が多い。しかしそれをパロマという一企業の責任だとして眺めていては、ガス業界にとって致命的な問題となりかねない。要は、お客様の不安を取り除くためにすぐに行動することが大切で、それは心配な機器はすぐ取り替えるということ。」(「月刊BOSS」2006年10月号の取材から)

 そうやって対処し、ガスへの不信を取り除こうとしてきましたが、年明けの北見ガス、そしてリンナイほか他メーカーの事故公表となり、いままさに「致命的な問題」とならぬための必死の対応が行われています。

 「企業の責任」への世の中の認識の変化を知ろう

 2月9日の経産省の「事故の再発防止」公表以降、メーカーや販売事業者による点検や交換に並行し、法令改正等も含めて事故の再発防止策がまとめられています。これらの中には点検義務の強化や回収・交換など、販売事業者の保安面での負担を大きくするものも含まれています。

 こうした動きに対しては、当然、「使用者ミスや使用者の自己責任に対してどこまで責任を負うのか」「製品の欠陥の責任を販売者も負う必要があるのか」といった意見も業界人から出されます。しかし、こうした論は、仮にそれが正論であり、販売事業者の負担を軽減求め業界のために発言されたものであったとしても、現在の状況下では十分な注意が必要です。

 パロマ問題の後、企業危機管理の専門家・田中辰巳氏((株)リスクヘッジ社長)を講師に、パロマやシンドラー社エレベーター問題などさまざまな企業と製品に関わる事件を素材とした講習(内容は非公開)を行ったタスクフォース21の牧野修三会長((株)カナジュウ・コーポレーション社長)は、パロマ問題以降一連の流れの中でのガス事業者の対応について、次のように語っています。

 「企業不祥事や製品トラブルへの対処として、田中先生は『岸』という言葉を使っています。お客様の『岸』に立つか、それてもこちらの『岸』でものを考えるのか、と。彼岸か此岸か、その視点が大切ですね。パロマ問題は不正改造についてのメーカーの指導責任、リンナイ問題は、不完全燃焼防止装置の信頼性に疑問符が出され、再点火防止(限定的な意味においてのインターロック)機能の義務化の動きも出ています。ナショナル(松下電器)は不完全燃焼防止装置のない湯沸かし器の交換ですが、同社の態度は灯油ファンヒーターの時とは随分と違うように見えますね。灯油ファンヒーターは『構造上の問題』でしたが、小型湯沸かし器は『使用上の問題』としてとらえ、扱いも随分違います。小型湯沸かし器問題はホームページでも見当たらないほどでした。『使用上の問題』ということで考えたとき、製品に問題がないからそれでいいのか、ということにはどうもなりませんね。当社が販売したガスで何かが生じたら、それに無関係ではいられません。販売事業者の『社会的責任』というか、そういうことに関する世の中の認識が変わっているということをよく知っておかなければなりません」。

 世の中の認識の変化を知らず、旧来型の責任論を展開すると世論の袋叩きにあい、当初のパロマの二の舞になりかねないことをガス業界人は知っておくべきでしょう。

 逆風を追い風にかえるための取り組みを

 「いずれにせよ、CO中毒防止対策の取り組みの基本姿勢が、あらためてガス体業界総体として世間から問題提起を受けていると総括できます。この認識を誤るとわが業界に明日はないですね。いまは逆風ですが、それはガスに対する関心が高まっているということですから、これを追い風にすることを考えましょう」(牧野氏)とするタスクフォース21では、逆風を追い風にかえるために」をスローガンに、情報の交換と共有化を進めています。すでにパロマ問題での会員各社の対応を情報共有(本紙4~5ページ)していますが、5月例会ではさらにリンナイの事故公表以降についての対応も共有化していく考えです。情報共有にあたっては、まず関連情報の整理・共有を行い、(1)顧客への周知状況(広報活動)、(2)機器メーカーとの連携(CO点検手順・基準等)、(3)CO点検実施対象機器に対する点検の有無、(4)周知文書の見直し強化、(5)液石法対応、(6)不完全燃焼防止装置なし機器の買換え促進策等……を踏まえた会員各社の発表を予定しています。

 無関心商材であったガスが、例え「事故」「危険」というマイナスのキーワードであっても、関心を集めていることは事実です。「一酸化炭素中毒防止対策の取り組み」を切り口に、お客様との関係性の再構築と、ガスへの理解とお客様の支持獲得へとつながる行動を展開していきましょう。