昨日の「非常識」が今日の「常識」
「常識」を捨てた電力会社

系統電源一辺倒の「常識」を捨てた電力会社


 「常識が変わった」のはガス業界ばかりではありません。ライバルの電力業界も、太陽光発電システムに積極的に参入してきました。この「太陽光発電でオール電化」は、これまでの電力業界のオール電化攻勢とはまったく異なるスタンスなのです。

 コージェネなどの分散型発電を手がけ、系統連係を行ったことのある事業者であれば、誰でもが電力会社との調整で苦労をしたことがあるはずです。電力会社は嫌がらせに近い対応で、分散型発電と自らの系統電源との接続を拒もうとしていました。曰く、分散型発電の電気が入り込むと電気の品質が保てない、と。電力会社に嫌な思いをさせられたのは、コージェネを設置したガス業界の人ばかりではありません。1970年代から地道に、未来のエネルギーとして太陽光発電の開発と販売を手がけてきた人々は、なんと40年以上も嫌な思いをしてきたわけです。

 ところが太陽光発電が世の中に大きく支持されてきた今、電力会社は掌を返し、子会社らを動員して「太陽光発電システム+オール電化」を普及させようとしています。電気の品質や系統連係のことは言わず、太陽光発電で余った電気を電力会社が買うのだから、オール電化は絶対にトクだと宣伝しています。電力会社は、系統電源一辺倒の「常識」を捨てました。君子は豹変するのです。

 電力会社のこの方針変更については、長年、電力会社に嫌な思いをさせられていた太陽光発電陣営の人々にとって愉快なことではありません。しかし、太陽光発電陣営の各社はも電力系への製品供給をやめるかというと、そうではありません。むしろそのことによって、太陽光発電の普及は一層促進されると判断し、連携しています。電力会社のお墨付きがつけば消費者もより受け入れやすくなりますし、広告宣伝での相乗作用も期待できます。恩讐の彼方に……経済・経営には、そういう面があります。

 さらに、これまでの太陽光発電システム販売の多くはメーカーの系列ごとに営業活動が展開されていましたが、例えば東京電力系の「オール電化館」のような場所で、全メーカーの製品をワンストップで比較検討できるようになることも、導入者側=お客様側のメリットとなります。従来の系列型販売のスタイルをとる太陽光発電システムの販売業者にとっては、これは大きな脅威となっているようです。シャープしか扱わない店よりも、三菱も三洋も比較できる店の方が、お客様側の魅力は高いですから。

 ただ一方で、電力会社は「太陽光発電システム+オール電化」なら買電するが、そこにガスが残っていたら買わないと言い出しました。「電気の品質」ではなく、「(ガスとの)競争上不利になる」という企業の論理です。「常識」を変えた電力会社も、まだ「体質」は変えられないのでしょう。しかし、電力会社が旧来の「常識」を捨てたのに、我々が旧来の「常識」に拘泥していたら、戦いには勝てず、お客様の支持も得られません。