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災害時の熱源確保

災害時の熱源確保

 

公共施設に「災害対応LPガスバルク」を災害時避難所に電気と熱を安全・迅速に供給

 大地震など災害時には電気、ガス、水道、通信といったライフラインへの影響も大きな関心事となる。日々の暮らしと産業活動が〝即〟ままならなくなるからだ。最大震度6弱だった「大阪府北部地震」(2018年6月)でも、都市ガスの全面復旧までには1週間程度かかった。
 また、「北海道胆振東部地震」では、ブラックアウト(大停電)が発生した。電気・ガスが途絶するとせっかく開設された避難所でも非常電源だけでは煮炊きや給湯、冷暖房は機能しない。
 こうした中で、発電機を動かし、同時に調理・給湯・冷暖房の機器のエネルギーとなる「災害対応LPガスバルク供給」が注目されている。

LPガスは大地震後の復旧が早い

 家庭用エネルギーには、送電線で運ばれる電力や導管供給される都市ガスなどの「ネットワーク型」と、タンクや容器に詰めて個別に運ばれるLPガス(プロパンガス)や灯油 などの「分散型」とがある。東日本大震災(11年3月)のとき、強い余震が続いたこともあって、電気は全面復旧に100日ほども要し、都市ガスも50日強もかかった。
 これに対し、容器(ボンベ)による個別供給が多いLPガスは40日ほどで全面復旧した。LPガスの復旧日数は、阪神淡路大震災(1995年1月)や新潟県中越地震(04年10月)、熊本地震(16年4月)でもおおむね同じように早く、「災害復旧力の強いエネルギー」とされている。都市ガスの場合、大地震後はガス設備に損傷などがないかを個別に点検調査し、エリア内の全戸をチェックし終えたところで供給を再開する。これに対し、LPガスは個別の点検調査が終われば終えた世帯ごとにすぐ使えるようになる。
 また、LPガスはいつも数週間から1ヵ月程度の容器内のストック=軒先在庫があるので、道路事情などで一時的にLPガスの配送が難しくなっても使い続けることができる。こうしたことから、LPガスは、国のエネルギー選択の基本戦略である「エネルギー基本計画」でも、石油とともにずっと、災害時のエネルギー供給の"最後の砦"と位置づけられてきた

災害対応LPガスバルク貯槽とは

 一般家庭に置かれている容器は最も大きなもので、LPガスが50kg入る。
 これに対し、バルク貯槽には300kg、500kg、1000kgの3タイプがあり、約100人のとき、LPガス残量が半分の状態でも500kgタイプなら3日間、1000kgタイプなら7日間も使える。
業務用の大型ガス炊飯器で1人1日3合として100人分のご飯、ガスコンロ2台とガス給湯器1台を各3時間使って温かい汁物やシャワーが提供できるうえ、ガス発電機1台、ガスストーブ2台を終日フル稼働させられる。

防災フェアに展示された災害対応 LP ガスバルク例(横浜市)。東日本大震災におけるライフライン復旧状況
 

仮設住宅に設置されたLPガス(写真上。気仙沼市) と震災直後に南三陸町志津川の仮設住宅等に設置されたLPガス(写真右)。神奈川県から大型トラックで、一般通行が禁止された東北道を緊急輸送されて運ばれた。 LP ガスと「スーパーかまど」を利用した炊き出し訓練の様子。首都圏では「九都県市合同防災訓 練」が毎年実施され、LPガス非常用システムも展開される。

災害後のエネルギー供給を支える

 大きな災害が発生すると、公共施設の多くは避難所や災害対策の拠点となり、病院は救護拠点となる。こうした場所で、災害復旧力の強いLPガスは、「被災地で役立つエネルギー」とも言える。容器から供給する LPガスが発電機を駆動させ、電力復旧までの非常電源を賄い、避難所等の煮炊きと給湯、冷暖房のエネルギー源となるからだ。
 一般家庭用の50キログラムの容器5~6本の設置で、避難所の当座のエネルギーは確保できる。国が導入を推奨している「災害対応LPガスバルク供給」(災害対応バルク)は、LPガスを大量にストックできる「バルク貯槽」と、LPガスを供給するためのガスメーターや ガスホース、圧力調整器などの「供給設備」、そして煮炊き釜や大型コンロ、ガス発電機、厨房機器といった「消費設備」との3点セット。
 地震などで都市ガスや電気が止まっても、安全かつ迅速にエネルギー供給ができる。災害対応バルクの導入費用は、バルク貯槽の大きさと揃える設備・器材によって当然違ってくるが、300キログラム用バルク貯槽と夜間照明確保のパッケージプランならおよそ200万円。中タイプの500キログラム用バルク貯槽と電源、照明・炊き出しのパッケージプランでおよそ500万円。また、1000キログラム用バルク貯槽と電源、照明、暖房のパッケージプランなら600万円ほどとされている。

(左)ガス配管に接続した小型発電機。(上)病院や福祉施設等で利用されている非常電源用大型ガス発電機。

LPガスと都市ガス

 LPガスは「液化石油ガス」のことでプロパンやブタンを主成分とする。家庭用では プロパンガス、タクシーなど自動車用はブタンガスが使用される。LPガスは液化する のが容易でシリンダー容器(ボンベ)に詰めて各家庭に運搬されている。
 一方、都市ガスは気体のままガス管で供給される。東京ガスなど多くの都市ガスはメタンが含まれる天然ガスが主な原料。天然ガスは液化するのにマイナス162度まで冷やす必要があり運搬が難しい。全国の家庭の55%が都市ガスだが、地方都市ガスの中にはLPガスを原料として導管供給しているところもあり、また70戸以上のLPガスによる導管供給は簡易ガス事業として区分されている。
 また70戸以下でも小規模のLPガス導管供給は各所にあり、都市ガスとLPガスの 区別は原料や供給形態だけでは単純区分できない面もある。都市ガス事業者の約200社は公益事業としてガス事業法に基づき事業が行われ、LPガスは液化石油ガス法という業法のもと、一部上場企業から家族経営の燃料店まで約2万者の民間事業者が存在している。

進まぬ避難所への災害対応バルク設置

 国は災害対応LPガスバルクの普及を後押しするため、東日本大震災の翌12年度の補正予算で導入先への補助金制度(災害対応バルク補助金) を設けて給付を開始。17年度までの5年間強で484施設に設置された。
 ただ、その設置先を見て目立つのは社会福祉施設(31%)、ガス事業者(13%)、病院11%)、そして公的機関・施設(8%)。避難所に指定されている学校施設は全国に3万校以上あるのに、17年度末現在わずか11校の設置にとどまっている。LPガス販売業界サイドでは、遅れている理由を、教育委員会や市町 村施設課への提案活動が徹底できていないうえ、手続きが煩雑であることを挙げている。
 業界団体である日本LPガス協会が災害対応バルク、ガスヒートポンプエアコン(GHP)を導入した全国8教育委員会等を訪問調査したところ、市町村長のイニシアティブが有力な決め手になっていることもわかったという。

避難所となる施設への基本は「平時も利用」

 今夏に閣議決定された第5次エネルギー基本計画は、年々存在感を高める再生可能エネルギーについては、「経済的に自立し脱炭素化した主力電源化」を目指し、「低炭素国産エネルギー源として重要なベースロード電源」である原子力は、可能な限り低減化しつつも、「実用段階にある脱炭素化の選択肢」として推進するという内容である。災害時を見据えたエネルギー政策としては、引き続き、最後の砦たる 石油とLPガスの災害対応力の強化に努め、国土の強靭化を進めていくことになっている。LPガスについては、全国約2200ヵ所にあるLPガス充填所のうち、約340ヵ所を災害時のLPガス流通の要となる「中核充填所」に指定し、万全の供給体制を整備した。
 費用対効果から見て、設置先で課題となっているのは、災害対応バルクの利用が災害時だけではいかにも不経済であること。補助金制度ではもともと停電時の自動起動とともに 平時利用が想定されているが、平時は給食施設厨房や教室空調などで利用し、いったん災害が発生したときは即緊急要請に応えられる導入促進が求められている。
 もちろんそのためには、平時のガス単価の問題もある。配送費用なども含まれるLPガスは都市ガスに比べて割高である。
 大量使用での割引料金の設定など、LPガス業界側もさまざまな料金メニューを用意しているようだが、一般には伝わっていない。

全国の公共施設にLPガス設備の導入を

 LPガスが災害に強いエネルギーであることは大地震のたびに実証されています。しかしながら、避難所となる公共施設で災害時対応のLPガス設備が完備されているところはまだまだ少ないようです。私たちLPガス販売事業者は、地域のエネルギー供給の担い手として、都市ガスエリアも含めた全国に、LPガスによる防災拠点づくりを進めていきたいと考えています。

全国LPガス協会会長 秋元 耕一郎 氏
避難所となる学校でのLPガス設備の利用訓練。

求められるエネルギーのベストミックス

 学校施設ではいま、教育環境の改善に向け、国の後押し(学校施設環境改善交付金)で冷房機能を持つ空調設備の導入が進んでいる。この施策により公立学校施設ではすでに42%が導入を終えたとされる。こうした動きに合わせて、LPガス販売業界では18年から、残り半分強の公立学校施設に対する「GHP(ガスエンジン・ヒートポンプエアコン)+災害バルク」のセット提案を強めている。
 セット設置のモデル事例の1つ、埼玉県富士見市の場合、都市ガスエリア内の小学校11校と、エリア外の中学校1校にLPガス仕様のGHP が導入され、供給設備には1000キログラム用バルク貯槽が採用された(ほか一部都市ガス設備も導入)。 導入検討に入ったところで東日本大震災が起き、災害対応と電力ピークカットを考慮して、「災害に強いLPガス」を導入したのだ。
 総予算8億円で、設置工事は12年12月から17年7月にかけ、冬休み、春休み、土日に行われた。"年度またぎ"の工事が敢行されたのは、市長から要請があったからという。
 こうした取り組みで、避難所対象の公共施設や学校にLPガスの常時利用が広まれば、防災拠点としての機能は一層高まることとなる。自由化によりエネルギー間の垣根が低くなったと言われている。「都市ガスの方が安い」「オール電化が便利」といった議論とは別に、効率が良いネットワーク型と災害時に強みを発揮する分散型、それぞれのエネルギーの良さを組み合わせる取り組みを、さまざまなエネルギー事業者が連携して取り組むことが求められている。(本誌特集取材班)

 

災害対応バルクの補助金制度のあらまし (平成30年度)

●対象設備

以下の設備で一体的に構成されたもの ・容器(バルクを含む)部分
・容器(バルクを含む)に接続する圧力調整器部分等(ガスメーターとガス栓含む)
・燃焼機器
※燃焼機器は、発電・照明ユニット、燃焼機器ユニット(調理、炊飯または冷暖房用)、給湯ユニット をいい、いずれか一つ以上のユニットを購入または自ら設置していること
※災害発生時に系統電力や水道等が途絶した場合でも、独立して稼働できること

・「容器(バルクを含む)部分」のLPガスは、原則として災害等発生時以外の、平常時にも使用されていること

●対象設置場所

・災害等発生時に避難場所まで避難することが困難な者が多数生じる病院、老人ホーム等
・公的避難所(地方公共団体が災害時に避難所として指定した施設)
※地方公共団体等によって所有される公共施設のうち、災害時に避難所として利用される自治体庁舎、学校、公民館、体育館などの公共施設等
・一時避難所となり得るような施設
※民間等が所有する工場、事業所、商業施設、私立学校、旅館、マンションなどの施設または敷地のうち、地方公共団体が災害時に当該施設を避難所として活用できることを認知しているもの(認知 を確認できるものであれば形式を問わない)

●対象経費

補助金の対象となる経費は「設備費」と「設置工事費」
・設備費は、石油ガス災害バルク等の機器購入費
・設置工事費は、石油ガス災害バルク等の機器設置工事費等
※常時使用の配管・電気配線等部分は補助金の対象外

●補助金率

・申請者が中小企業者のときは、補助金対象経費の2/ 3以内
・その他、上記に該当しない者は、補助金対象経費の1/ 2以内
※補助金の交付限度額は、1申請あたり1500万円
※リースの場合は、共同申請者が中小企業者のときは補助金対象経費の2/ 3以内、該当しない者は経費の1/2以内

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写真提供:(一社)全国LPガス協会、(一社)埼玉県LPガス協会、(公社)神奈川県LPガス協会、(一社)タスクフォース21、三共石油ガス(株)

 

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