ところで、買い物って好きですか?【第5回】魅惑のプチエンターテインメント
- 2019/07/02 16:28
- カテゴリー:買い物
ところで、買い物って好きですか?
【第5回】魅惑のプチエンターテインメント
本間理恵子
中学時代、愛読書は『ムー』でした。サイコキネシスだとか、エドガー・ケーシーだとか、覚えていなくてもよいことを今でもしっかり覚えています。わけのわからないものというか、何かワクワクできるものに興味を惹かれるのは、私だけではないはずです。
例えば、バミューダトライアングルの謎。フロリダ半島の先と、バミューダ諸島、プエルトリコを結んだ正三角形エリアで、飛行機や船の行方不明事件が頻発するものの、原因は全くわかっていません。
そもそもの発端は、マクシミリアン・ベルリッツ氏(ベルリッツ語学学院の創始者の孫)の小説のようです。オカルトに興味を持っていたベルリッツ氏は、そのエリアで発生した実際の船舶や飛行機の遭難事件を、『The Bermuda Triangle』という本に超常現象としてまとめ、全世界で500万部の大ヒット。面白みのない真実は遠く彼方に追いやられ、なぜか船が消える、なぜか飛行機がいなくなるエンターテインメント作品が人々の心をとらえ続けることになったのです。
今、リアル店舗に足を運ばせるには、「ショッピングはエンターテインメント」であることを肝に銘じる必要があると前回までにお話ししましたが、商品開発にもエンタメ波が着実にきています。
先日、セブン‐イレブンに寄ったところ、赤い袋に「メラメラ。」、緑の袋に「ツーン ピリ。」と書かれた商品が目に飛び込んできました。小さくポテトチップスと書いてあるから、「メラメラ。」な感じや「ツーン ピリ。」な感じのポテトチップスなわけで、要は、本当のところどんな感じか、「遊んでみない?」という商品。
案の定、専門学校付近の若者が群がるセブン‐イレブンでは、大いに遊ばれているらしく、棚がスカスカでした。
20年前、こんな感じの商品を企画したら、「ホンマー。キワモノだよね、それって」と言われて一蹴されるだけだったでしょう。奇をてらうことは、その商品そのものが持つ本来の価値を理解し、購入してくれるファンを増やすことにはつながらないと言われていた時代でした。
でも今は違う。美味しさはどのメーカーでも「ほぼほぼ同じ」。だったらどれだけ楽しませてくれるかで選ばれる時代なのです。
カップ麺市場も、数年前からかなり「キワモノ化」いや「超エンタメ化」しています。「カップヌードル」の日清食品は昨年「謎肉祭り」を開催したかと思ったら、今年は「珍種謎肉」だそう。ネットでは「進撃の謎肉」と銘打ったキャンペーンを絶賛展開中。
「珍種謎肉」第1弾はスモーキーチリ味らしいのですが、すでに第2、第3の謎肉の登場を予告。キャンペーンページの最後は「今すぐ店頭に急げ!」でしっかり締めくくられています。
「ペヤングソースやきそば」のまるか食品は、パクチー大ブームに乗っかって「パクチーマックス」や激辛やきそば「もっともっと激辛マックス」を世に問うたかと思えば、今年は、満を持して「超超超大盛 GIGAMAX2142㌔㌍」を投入。調理に1・3㍑のお湯を必要とし、成人男性の1日分のカロリーを1食で満たすこの商品の先には何が待ち受けているのか。
1人で完食、腹くちくなって転がっている男子はもとより、家飲みシーンでワイワイとGIGAMAXを囲んでいる女子たちの姿も目に浮かびます。
この手の限定商品を手に入れるのは意外と難しい。SNSを駆使してどこで売っているのかを血眼になって調べ、ちょっと遠くのコンビニまでヨロヨロ出かけてようやくゲット。持ち寄りパーティで友達と味見。苦労話は美味しさを増すスパイス代わり。即席麺をめぐる騒動は、数百円で楽しめるコスパマックスかつリアルなエンターテインメントなのです。
お客様を説得するのではなく、楽しませる。そんな発想の先には、今までになかった光景や、思いがけないお客様との出会いが待っているのでしょう。
ほんま・りえこ
博報堂勤務を経て、マーケティング・プランナーとして活躍中。著書に『買物脳|成功する企業になるための5つのキーワード』(主婦の友社)、『マンガで〝買物脳〟実践編〜悩み解消!コレがお買い上げのツボ!』(諏訪書房)