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2030年日本の住まいと住宅産業はどうなっているの?

  • 2019/06/20 16:11
  • カテゴリー:住宅

2020年「省エネ基準」義務化

2030年「ゼロエネ住宅」標準化

2030日本の住まい住宅産業どうなっているの?

国の新たな住宅省エネルギー基準により、2020年以降はすべての新築住宅が定められた基準をクリアしなければならない。

さらに国は、2030年には新築住宅のすべてを「ゼロエネルギー住宅」とする方針を打ち出している。

あと10年ちょっとで、日本の新しい家はみんな、エネルギーを買わない家になるという。

それは現実化するのだろうか。

そして、そのことで日本の住宅産業はどう変わるのだろうか。

 

house201806_1.jpg2030年には「標準化」されるというZEH住宅

 

 

ウサギも犬も住めない日本の家

house201806_2.jpg 多くの日本人が「日本の省エネ技術は進んでいる」と考えている。2度にわたるオイルショックを経験し、1979年には「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(省エネ法)を制定し、国を挙げて省エネに取り組んできた、と。確かに、エネルギー消費効率の各国比較では、日本を1としたとき、世界平均は2・5で、ドイツ、フランスは1・1、アメリカは1・6、中国6・2、ロシア7・8となっている。これだけを見れば日本は立派な「省エネ大国」だが、そう威張ってばかりもいられないことがある。それは、住宅の省エネ性である。木造主体の日本の住宅は古来、夏の暑さや梅雨時の湿度を軽減させることに重きが置かれ、寒さは我慢する、という傾向があった。また現代においても、一般住宅の耐用年数は30年程度で、築100年以上がざらという欧米の住宅とは、もともと頑丈さが異なっていた。

 頑丈という点では、地震国日本では、住宅の耐震性についてはさまざまに規制が強化されてきた。だが、熱を逃がさないことはほとんど考慮されなかった。通風通気は考慮するが、気密や断熱はほとんど顧みられなかったのである。

 欧米ばかりでなく、中国や韓国においても、国が定めた「断熱最低基準」を満たさない窓は使用できないなど、断熱=省エネにかかわる厳しい規制がある。日本の場合これまでこうした規制はないか、あっても極めて緩いものだった。先進国で一般住宅の断熱の最低基準がなかったのは日本ぐらい。日本ではこれまで、「無断熱」の家を建てても違法ではなかった。このことが、結果的に日本の住宅を「省エネ性に劣る」「性能が悪い」住宅としているのである。

 例えば、日本の窓でふつうに用いられているアルミサッシは、海外ではもう30年も前から樹脂サッシが採用されている。アルミの断熱性は樹脂のなんと1000分の1。断熱性能が悪すぎるから、現代の住宅ではアルミサッシは使わないのが「世界の常識」という見方さえある。

 日本の住宅はその狭さから、長い間「ウサギ小屋」と言われていたが、海外から見れば、断熱性では「ウサギも犬も住めない家」ということに なってしまうのである。

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なかなか進まない 住宅の省エネ

 1997年12月開催のCOP3(京都市)のあと、国を挙げて省エネ対策が進められてきた。しかし、家庭用部門では必ずしも効果が上がっていない。省エネがコスト削減に直結する製造、運輸部門などと違い、家庭用、つまり住宅では、これまでは世帯数そのものの増加、利用する設備機器の増加、ライフスタイルの変化などによって、エネルギー使用量はどうしても増加し、減らすことが難しかった。

 しかも、前述のように、豊かさの中で、「寒い冬はひたすら我慢」の必要はなくなったが、一方で、エネルギーはどんどん使うが、断熱されていないので熱の垂れ流し状態という住まいと暮らしになっていたのである。

 国はCOP3以降、99年に「次世代省エネ基準」により一般住宅における省エネ基準を定めたが、国際的に見ても低レベルで、それを守る義務もなかった。そのため、コストがかかる省エネ機器への交換や省エネ効果を発揮する断熱などの採用は施 主側の選択にゆだねられ、省エネの 効果がなかなか上がらずにきたわけだ。

 今回の改正では、住宅の断熱性能をより細かくチェックするとともに、新たに暖冷房や換気、給湯、照明などといった設備機器のエネルギー消費効率も評価対象に加えた。これが新築一般住宅のすべてに義務化されることにより、2020年以降に建 つ一般住宅は、高い断熱性能や気密性能とともに、より高効率な設備機器が標準搭載されることとなるわけだ。

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断熱や省エネの義務化ゼロエネルギーの標準化へ

 今回の省エネ基準の改正、「建築 物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(建築物省エネ法)の目的は、省エネ化によるエネルギーコストの節約はもちろん、健康で快適な暮らしが送れ、さらに長持ちする住宅を提供していこうというもの。  経過の誘導措置を経て全面施行されたことにより、20年以降の新築住宅は断熱や省エネの基準クリアが耐震性能と同様に「義務化」されることとなった。住宅購入者が任意で省エネを選ぶのではなく、建築・販売 側に省エネ性能以外の住宅を扱えな いようにするというものだ。

 基準に適合した省エネ住宅は、「認定長期優良住宅」として、住宅ロー ン減税や登録免許税・固定資産税の軽減といった税制優遇措置、住宅ローン金利の優遇措置(フラット35S)が受けられるようにするなどして、購入者側のメリット、インセンティ ブも用意されている。

 加えて国は、2030年には消費分に見合うエネルギーをつくりエネ ルギー消費をゼロにする「ZEH」(=ゼッチ。ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を標準化させ、さらに建築から解体までの総CO2排出量をマイナスにする「LCCM住宅」 (ライフサイクルカーボンマイナス住宅)を一般普及させていくロードマ ップを打ち出している。

 

ZEH標準化は実現するか 大手は対応済みへ

 国が20年の省エネ基準義務化の先に標準化をめざすのが「ZEH基 準」。高い「断熱」性能、高効率機器やHEMSによる「省エネ」、太陽光発電などによる「創エネ」を組み合わせ、住まいの年間一次エネルギー消費量がゼロになる住宅。普及促進のために、ハウスメーカーやビルダーに対しては「ZEH登録制度」が設けられ、前述のインセンティブの周知に努めている。

 すでに大手ハウスメーカーを中心に、ZEH登録を行い普及目標を設定して取り組みを進めているが、やはり問題はコスト。断熱性能基準を満たしている住宅でも、さらにそこに太陽光発電システムや蓄電池を搭載させると、価格は最低でも75万円、 フルスペックでは400万円も上がる場合もある(太陽光発電パネルを搭載しにくいといったケース等を想定した「Nearly ZEH」基準も設けられている)。

 本誌では大手ハウスメーカーや有力ビルダーに対してZEHを含めた省エネ住宅への取り組みを調査した が、回答を寄せた企業のすべてが「ZEH対応済み」と回答している。「ZEH仕様の当たり前化を推進。基準を上回る当社商品は、未来を先取りした豊かな暮らしを実現する」(大手ハウスメーカーA社)と、省エネ住宅販売を重点化している。

 当然各社とも「ZEHビルダー登録済み」あるいは「登録予定」であり、 そのほとんどが「新規受注のすべて に対応可能」で、20年までに「ZE H普及5割以上」が達成できるとしている。「20年の新基準義務化(新築100%達成)は可能」と回答しているメーカーも多い。

 大手ハウスメーカーが対応しているのはほぼすべてが「ZEH住宅(経 産省基準。UA=0・6以下)」「UA =0・6以下。太陽光なし」で、「LCCM住宅」「ゼロエネ住宅」「認定低炭素住宅」「新基準対応住宅(UA=0・87以下。20年義務化レベル)」については、メーカーにより採用・取り組みがわかれている。具体的な基準がまだ未定なLCCM住宅は、 超先進的な事業者が一部試験的に採用という状況。

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「外皮基準」と「一次エネ消費量基準」

 省エネルギー基準の評価にあたっては、「外皮基準」と「一次エネルギー消費量基準」にセットで適合することが求められる。

 基準への適合は、実際の住宅の設計仕様で算定された「設計一次エネルギー消費量」が、「基準仕様」で算定した基準一次エネルギー消費量“以下” になる

ことが基本となる。

 また、設備機器の一次エネルギー消費量については、「暖冷房設備」「換気設備」「照明設備」「家電調理等」のエネルギー消費量を合計して算出。「エネルギー利用効率化設備」(太陽光発電、コージェネレーション設備)による発電量は、これからエネルギー削減量として差し引く。

2013年基準に適合する外皮と、2012年の標準的な設備。

 

外皮省エネ基準の改正内容

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技術力ではなく営業力 小規模工務店は激減する⁉

 大手ハウスメーカーの動きを見るだけでは、ZEHの普及は着々と進んでいるようだが、取材を進めると地場ビルダーでは対応できているのはまだ一部のようで、国交省基準のゼロエネ住宅や認定炭素住宅に対応しているのは、地場有力ビルダーの国交省補助金取得層に限られている。いわゆる町の工務店ではZEH対応しているのはごくごくわずか。

 現状では大手ハウスメーカーが手掛ける新築住宅は市場全体の4分の1程度。4分の3を占める地場ビルダーの大半や工務店がZEH対応できないとすれば、「2030年にはすべての家がゼロエネルギー」達成は困難である。

 本誌の調査や取材でも、ZEHを推進している大手ハウスメーカー担当者の7割近くが、2030年時点でも業界全体では「ZEHは普及しない」と回答している。「いや、それでも何が何でもZEHだ」ということになれば、ZEH対応できないビルダーは市場から退場せざるを得ない。

 ハウスメーカーに「2030年の日本の住宅と住宅業界の状況はどうなっているか」と問うたところ、取材した多くの関係者が「個人の感想」として「小規模工務店は激減する」と口を揃えている。

 小規模工務店の側も、「ブランド力のある大手ハウスメーカーならともかく、中小ビルダーや町の工務店がZEH住宅を建てたり販売するのは難しい」という声もある。「ZEH標準化以前に、2020年の義務化対応でビルダーの淘汰が始まる」と心配するビルダー経営者もいる。

 さらに別の業界人は「中小規模のビルダーがZEH対応できないのは技術力がないからではない。もちろん、世の中の流れに無関心な大工さんもいないではないが、設計がZEHになっていれば、それを作るのがプロである。実は、対応ができない大きな理由は、技術力ではなく、営業力なのだ」と言う。ZEH住宅はエネルギーを買わなくて済むのだからランニングコストが安くなる。だがその分イニシャルコストが高い。

 「ブランド力があり、営業マンが説得力ある説明ができる大手ハウスメーカーであれば高くても売ってこられるが、町場の工務店には無理だと、はなからコストが高いZEHは売れないと決めつけている。やれないのではなく、やらないのだ」と。

 地域の中小規模ビルダーを加盟店に抱えるある住宅FC本部は「ZEH普及の国策を踏まえた住宅の商品化、販売・普及ロジックを構築して加盟店に提供している。同時にエンドユーザーに理解度を深めさせる=加盟店がいかに無理なく手間を増やさずにエンドユーザーに供給できる住宅商品を提供し、受注に向けたサポートを供給できるかに注力している」と言う。

 もちろん、大手ハウスメーカーもZEHを簡単に売って歩いているわけではない。本誌の調査でも「省エネ住宅普及のために解決すべき課題は」の問いに、大半のハウスメーカー・ビルダー担当者が「コスト」と「ユーザーの理解」を挙げている。「この2つは同じこと」(ハウスメーカーB社)だと言う。注文住宅がメインの大手住宅メーカーの場合、やはりコスト面で施主の理解が得られるかどうかで省エネのレベルを決定している。「建物本体の省エネ性については、その基準を大きく上回るものとしているが、創エネ機器の設置は施主の意向を優先しているので『新築=ZEH』とは、なかなかならない」(大手ハウスメーカーC社)と言う。

 

創エネ・太陽光は必要か断熱が十分ならそれでいい⁉

 ZEHなど省エネ対応による戸建住宅1戸あたりのコスト増は「30万円未満」から「200万円未満」までメーカーによって差がある。しかしいずれも、太陽光や蓄電池設備を加えれば、プラス75万~100万円はさらに必要となる。

 

 

house201806_8.jpg省エネ基準をクリアすれば
低価格でも品質が保証される

洋館家本店

 中小規模工務店の省エネ基準対応が遅れていると言われる中、自社と全国の契約加盟店千数百社を通じて、規格住宅を販売する洋館家本店では、今年4月から省エネ基準適合商品の販売を開始した。戸建賃貸用の住宅販売を主力とする同社グループは、2020年の義務化対応だけでなく、2030年を見据えた商品開発と販売を展開するという。その狙いについて、同社・福田功統括代表に聞いた。

 

太陽光を載せればZEH

――規格住宅であっても、省エネ基準をクリアするにはコストがかかるのではありませんか。

福田 その点が最も苦労しました。当社の主力は戸建賃貸住宅なので、オーナーの投資回収の面からは建物コストを極力抑えたい。しかし安かろう悪かろうでは入居者が得られず、結果として投資の回収はできません。低価格で高品質な住宅を徹底して追求してきましたが、省エネ仕様でその基本が崩れても困ります。

 今回発表した商品群はZEH仕様ですが、太陽光発電や蓄電池はオプションです。太陽光を載せればZEH。断熱性・耐久性・劣化性等をクリアし、現時点で約20%の一次エネルギー量の削減に成功しています。また外壁はメーカーに独自の製品を依頼し、再塗装を20年間メンテフリーとしました。外壁の再塗装は 通常10年に1回程度行いますから、そのことでランニングコストも削減しました。

 今回、同タイプではわずかな価格改定もありましたが、値上げではなく、2030年まで見据えた新しい商品としてご理解を願っています。それでも「驚異的な価格」と言っていただいていますし、私たちは「国際水準の資産価値」と胸を張っています。

 

住宅も通販で買えるべき

――施工や販売は全国の中小工務 店が行うのですか。

福田 本部のある栃木県や首都圏の一部を除けば、自社以外の施工店さんが行います。地場の有力ビルダーさんもいれば、一人親方の大工さんもいます。でも、当社の商品はどこが施工しても同一品質の建物になることが基本です。そうでなければ、コスト削減はできません。

 もともと私は、日本の住宅は高すぎると考えていました。高いだけでなく、価格の算定根拠もバラバラで不透明。近年、ネット通販なども浸透し、多くの商品や産業が、低価格で明確であってほしいという消費者のニーズに応え、対応できない企業 や産業は市場から消えています。住宅だって『通販』で買えるようにならねばならない。仕様を見て、価格を確認し、注文したらその通りのものが出来上がる。もちろん、こだわりの注文住宅は否定しませんが、多くの人が生涯所得の大半を家につぎ 込むというのはいかがなものかと思います。

 そんな思いから、私たちは一生懸命低価格・高品質住宅をめざしてきました。でも、ブランド力が弱い当社や地場の施工店さんが低価格商品を提示すると、建物品質も安っぽいのではないかと思われてしまうことがよくあります。それが今回、省エネの基準を国が定めました。価格 が安くても、それをしっかりクリア しているのですから、これ以上の品質保証はありません。

 

買っても借りてもいい

――戸建賃貸住宅を重点化する貴社は、将来は持ち家より賃貸志向が強まると考えているわけですか。

福田 日本人の持ち家志向がそう簡単に変わるとは思えません。でも、成熟社会の中で格差が拡大する現在、将来を案じる人々にとって老後の生活費や医療費、介護や施設利用費等、厚生年金や国民年金では足りない。昭和の高度成長期のような不動産神話が再現することはありませんから、家を買うことがただ負債を背負うだけ、財産にならないということに気付く人は増えるでしょう。ローンを払い終わったときに貯 金は底をつき、なおかつ建物の財産価値はないというのは悲劇です。

 当社は戸建賃貸住宅を「借りるマイホーム」と呼んでいますが、「買っても借りてもいい」住宅の提供が、当社のビジネスです。

 家を買うのか借りるのか、それも含めて多様な住まい方に対応し、かつより良い形を提案することが、これからの住宅産業に求められているのだと思います。当社の住宅商品は、30年時点でも対応できる仕様であるのと同時に、その時代の社会でも価値あるものでありたいと考えて います。

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住宅性能だけでなく「新しい居住スタイル」も

アキュラホーム

 

 木造注文住宅メーカーであり、全国のビルダーに資材提供等も行っているアキュラホーム(宮沢俊哉社長)では、省エネ対応が遅れがちな小規模工務店の経営を支えるため、工務店経営者に向けての経営塾「永代ビルダー塾」を開催している。省エネ対応は、工務店が生き残るための必須要素の1つと考えているからだ。

 同社自体のZEH対応は、すでに基準仕様の商品を開発し販売のメイン商品としている。だが同社では「今はハード整備が主流だがソフトも充実させたい」と強調する。同社では2030年の日本の住宅はIoTとAIの進化で利便化が進み、それが生活の多様性を生み出すと予測している。家事を楽にする、家計を楽にするなど、住宅に対する価値感でかける費用も変わるはずで、高価格と低価格の二極化に進むともみている。そこに対応すべく、高価格から低価格までの商品ラインナップを揃えるとともに、事業の柱を「新築」+「リフォーム」+「街づくり」にしていきたいとしている。

 この考えから生まれた付加価値サービスの1つが、「永代家守り」事業。「住まい手と作り手が一緒に家を守る」という考え方のもとで、これは「大工からはじめた」宮沢社長の信条を社内で共有し取り組まれている。また、コミュニティ形成ができ、「価値が下がらない」街づくりをめざした大規模分譲(京王相模原線・若葉台など)も行っている。

 機器を含めた住宅の「性能」といったハード面だけでなく、ソフト面でも「住み心地のいい家づくり」を追求する。それが2030年に向けた住まいづくりだというのが、同社の基本方針となっている。

 

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